● 多彩な働きをするマグネシウム
栄養調査で、カルシウムの摂取が少ないと言われ、カルシウムを摂りなさいとよく耳にしますが、単純にカルシウムを摂りさえすればいいものでもありません。カルシウムと同時にマグネシウムの特徴を知っていないと、せっせと摂ったカルシウムが逆効果になりかねないのです。
● カルシウムとマグネシウム
体内のカルシウムの99%が骨と歯の中に存在します。残りの1%がほぼ血液中に存在します。血液中のカルシウムは、タンパク質と結合した状態か、イオン化したカルシウムの形で存在します。このカルシウム・イオンが様々な体の働きに関わりをもっています。通常、細胞の外にカルシウムが存在して、何かの働きをする時に、細胞の中に移動します。細胞の内:外の比は、何と1:1万です。ミネラルによって、細胞の外より内の方が多いものもありますし、その内外の比は異なります。それでもせいぜい数十:1です。カルシウムの働きの秘密はこの内外の比の開きにあります。
筋肉の細胞は、カルシウムが細胞の中に入ることによって収縮します。細胞の中のカルシウムが外に出ることによって弛緩します。血管の周囲も筋肉の細胞(平滑筋)でできています。血管周囲の筋細胞が収縮すると血管は細くなります。逆に弛緩すると血管は太くなります。血管が細い状態は、血圧が高い状態です。
実は、細胞の中に入ったカルシウムを細胞の外に出すのは、マグネシウムの役割なのです。マグネシウムが不足すると、細胞の中に入ったカルシウムを外に出せなくなってしまいます。動脈硬化など本来カルシウムが蓄積するはずのない場所に蓄積してしまうこともあります。
● マグネシウムと心臓
心臓は、心筋という筋肉でできています。心臓は、生まれてから亡くなるまでまったく休まずに動き続けなければならない器官です。心筋は収縮と弛緩を絶えず繰り返さなければならないので、特にマグネシウムが重要な働きを担います。
マグネシウムは、カルシウムと違い、細胞の外よりも内に多く存在するミネラルです。心筋梗塞というのは、心臓に酸素や栄養を送る冠状動脈という血管が詰まってしまう病気です。酸素や栄養が途絶えた心筋細胞は、機能しなくなり死んでしまいます。
細胞の中に多いマグネシウムも大量に失われることになります。生き残った心筋に過度の負担がかかりますし、今までリズミカルに動いていた心臓も部分的にしか動けないわけですから思うようなリズムも取れなくなり、不整脈という状態になってしまいます。
● マグネシウムと病気
マグネシウムの不足は、心臓病だけでなく、様々な病気に関係してきます。
1疲労
300種類以上の代謝に関わるマグネシウムが不足すると、円滑な代謝を妨げ、不要な物質をため込むことになります。また、エネルギーをつくり出す反応に不可欠なため、不足すると疲れやすくなります。ビタミンB1、B2、B6は、代謝の要になるB群ですが、これらのB群もマグネシウムの助けがないとうまく働くことができません。
筋細胞中のマグネシウムが不足すると、細胞の外に圧倒的に多いカルシウムが細胞内に流れ込みやすくなり、そのため筋肉が収縮するが、マグネシウムが少ないためカルシウムを細胞の外に汲み出せないという状態、つまり痙攣を起こしやすくなります。マラソンの後の選手の細胞内マグネシウムは、激減します。慢性疲労症候群の患者の細胞内マグネシウムが不足しているという報告もあります。
2生理痛・頭痛
生理痛は、子宮筋のいわば痙攣ですから、マグネシウムの不足している状態でもあります。実際、適切なマグネシウムの補給で、生理痛がなくなる人もいます。 一口に頭痛といっても、その原因にはいくつかあります。マグネシウムが役に立つのは、肩こりなど筋肉の緊張から来る筋緊張性頭痛。
それと血管の部分的な収縮と拡張から来る血管性頭痛です。マグネシウムは、筋肉の緊張を解いてくれます。また血管の筋肉をリラックスさせることで血流が増え、血行が良くなるからです。他のタイプの頭痛、例えばクモ膜下出血によるものや脳腫瘍によるもの、脳出血によるものなどもありますので、まず自分の頭痛が何であるか、医師の診断を受けるべきです。
3ゼンソク
ゼンソクというのは、気管支の筋肉が収縮し続けている状態のことです。そのため呼吸が苦しくなるのです。マグネシウムは気管支の筋肉を弛緩させて、筋肉の収縮を緩めることで気管支を広げてくれます。また、ゼンソクは、アレルギー反応ですが、マグネシウムにはアレルギー反応を抑える働きもあります。カルシウムが肥満細胞に流れ込むと、ヒスタミンが肥満細胞から放出されるのですが、十分なマグネシウムがあればカルシウムの流入を抑えられるからです。
4糖尿病
血糖値が高くなると、マグネシウムの尿中への排泄が増えるためでしょうか、糖尿病の患者には、マグネシウムが不足しているという研究報告があります。インスリンをつくるには、マグネシウムが必要なので、血糖値が高い人は特にマグネシウムの摂取を心がけるべきでしょう。
5骨粗鬆症
マグネシウムは骨の主要な構成要素であるばかりでなく、骨の中にカルシウムの結晶をつくるのに必要です。血中のカルシウムのレベルが低くなると骨からその都度カルシウムが溶け出していきます。マグネシウムにはその血中のカルシウムのレベルを調節して骨からカルシウムが抜け出るのを防いで、骨密度を維持する働きがあります。