自然の大きな恵み“位置シグナル”

● 食べるべきもの
酵母、植物、動物には、位置シグナルの付いた蛋白質があります。ですから利用する食べ物としては、酵母、植物、動物が優れた食材になります。植物を利用した方が安心できます。無農薬有機栽培のものであれば、なお安心できます。植物の方が、もともと食べるべき部分が、果実とか豆とか葉とか、はっきりしています。植物の方で、食べてもらえるように用意している部分があるのです。また、酵母であれば、単細胞生物ですから、丸ごと全体を食べられるわけです。

酵母には、各種アミノ酸、ミネラル、ビタミンB群の他、グルタチオンなどの酵素も含まれています。菜食では摂れない各種アミノ酸とビタミンB12なども補えるので、動物性食品を一切摂らない菜食主義者には、酵母は欠かすことのできない食材です。ただしここでいう酵母は、食用酵母という食べるための酵母のことです。みそやしょう油やビール造りに使われた後の酵母は仕事を終えた酵母ですから、そんなに栄養素は残っていません。

酵母を育てる時に与える栄養素しだいで、酵母に含まれる栄養素の量は大きく違ってきます。厳密に栄養管理をして育てた食用酵母は、それ自体優れた食材ですし、無精製栄養素のサプリメントの良い素材にもなります。以上のような理由で、動物よりは、植物や酵母を利用した方が安全で効率的に栄養を摂れることになります。こうした自然の恵みの豊富な食べ物を精製せずに無精製のまま食べるのがもっとも賢い食べ方なのです。

白米よりも玄米、白パンよりも全粒紛のパンを食べる方が、自然の理にかなっています。このことは、ビタミンやミネラルなどのサプリメントにも言えることです。せっかくの自然の恵みを精製して、分離・抽出したビタミンやミネラルだけのもの、合成でつくられた精製ビタミンやミネラルには、位置情報(シグナル)は元より他の自然の用意してくれている恵みは、一切含まれていないのです。これに対して、自然の食べ物の恵みを丸ごと摂取できるのが、無精製栄養素のサプリメントなのです。

ビタミンは基本的には補酵素ですから酵素と一緒に働いていますし、ミネラルは酵素の一部であったり、蛋白質によって運ばれたりしています。その状態のままのビタミンやミネラルを摂り込むのが賢いのです。その中からビタミンやミネラルだけを取り出したり、ましてやビタミンやミネラルを合成したりすることは、不自然で非効率的なことです。位置シグナルは、自然の大きな恵みの一つです。人間が知らないだけで、もっといろいろな恵みが自然には隠されているのです。

● ミネラルと蛋白質
ブローベルの研究は、蛋白質についての研究ですが、ミネラルなどの栄養素は、蛋白質と結合して運ばれます。ですからこの栄養素を乗せている蛋白質に住所札(位置シグナル)が付いていないと、正しい場所に行き着けないのです。また体の中の化学反応を仲介する蛋白質である酵素にはミネラルが必要ですが、酵素までうまくミネラルが運ばれないと、酵素は働けません。

@銅の例
特に銅についての研究が盛んです。ミネラルは、蛋白質によって運ばれます。ずっと同じ蛋白質に乗って運ばれるのではなく、次々と蛋白質を乗り換えながら、目的地に向かうのです。この運ぶ蛋白質にも住所札が付いているわけですが、その住所札が間違っていたり、住所札そのものがなかったりすると、ミネラルなどの栄養素を目的地まで運べないことになります。ミネラルの吸収、運搬、利用については、完全には分かっていないのですが、分かっていることを簡単に説明します。アミノ酸にキレートされた銅は、小腸から吸収され、セルロプラスミンという蛋白質の乗り物に乗って、血液中を運ばれます。ここでは、これだけ押さえてください。

A細胞の中での銅の移動
それでは細胞の近くまで来た銅は、その後どうなるのでしょうか。この研究は、酵母で盛んに行われています。というのは、酵母は、人間と同じ真核生物(細胞の中に核を持っている生物)なので、細胞の仕組みが非常によく似ているからなのです。細胞の近くまで来た銅がたどる経路は現在分かっているだけで、三つあります(Science, 1997)。

1. 蛋白質Ctr1に運ばれて細胞膜を通過します。そのあと蛋白質Atx1でゴルジ体まで運ばれて、ゴルジ体の膜にある蛋白質Ccc2によってゴルジ体の中に入り、蛋白質Fet3まで運ばれます。Fet3は、ヒトのセルロプラスミンに相当します。
2. 蛋白質Ctr1で細胞膜を通過した銅は、蛋白質Lys7によって、抗酸化酵素SODまで運ばれます。SODは、スーパーオキサイドディスムターゼという抗酸化酵素のことです。
3. 蛋白質Ctr1で細胞膜を通過した銅は、蛋白質Cox17でミトコンドリアに運ばれ、ミトコンドリア内のCCO(シトクロームC酸化酵素)に最終的に運ばれます。

これらの運搬役をしている蛋白質以外にも、別な蛋白質が働いているのかも知れませんが、今のところ、詳しくは分かっていません。ここで、押さえておきたいのは、細胞の中でミネラルを運ぶためにいろいろな蛋白質が次から次へと出てくるということです。銅イオンは他のミネラルイオンと同様にビタミンCなどと出会うと、強烈に反応して、有毒な過酸化水素を発生させてしまいます。ですから銅イオンのまま移動させずに、常に蛋白質が目的地まで、リレーをしながら運ぶのです。それぞれの蛋白質には、目的地の書かれた住所札(位置シグナル)が付いています。

B無精製栄養素のミネラル
ミネラルを酵母や植物からそのまま摂取していれば、ミネラルだけでなく、ミネラルを運んでいる蛋白質やミネラルを利用している酵素も一緒に摂れます。同様に、酵母や植物にもともと含まれているミネラルを無精製栄養素のサプリメントとして摂っても各栄養素をバランスよく摂取することができ、しかも食べ物よりも確実に期待する量の栄養素を補えます。しかし無機酸(炭酸やリン酸など)や有機酸(クエン酸やグルコン酸など)と結合しているミネラルだけのサプリメントを摂ると、遊離したミネラルイオンに対応するだけの蛋白質を、体の方で準備しなければなりません。

遊離したミネラルイオンは役に立たないばかりか、ビタミンCと反応してむしろ有害なのですから、そういう状態を避けるためにも、たくさんの蛋白質が体内から動員されるわけです。蛋白質に乗せきれず、処理できなかったミネラルイオンは、おとなしく尿と一緒に出てくれればむしろありがたいほどです。自然のバランスを欠いた精製ミネラルのサプリメントを長期間摂り続けていると、ミネラルが補われるどころか、むしろミネラルを利用するために体内から動員される様々な栄養素が不足してきます。

● 使われ方の仕組み
位置シグナルによってビタミンやミネラルが働くべき場所まで到達すれば、あとはいかに効率よく働くかです。ビタミンやミネラルは協力して働きます。またビタミンは酵素と結合して働く補酵素の一つです。食べ物や無精製ビタミンには、ビタミンだけでなく、酵素、補酵素、抗酸化物質、植物性化学物質(ファイトケミカル)も含まれています。その酵素には、アミノ酸とミネラルも含まれています。その他にもまだ知られていない活性物質が含まれている可能性があります。

生きた細胞の中で作業中の栄養素群を、バラバラに切り離さずにもってきたのが、無精製ビタミンです。作業現場から作業グループとして来てもらったようなものです。作業道具も揃ったままです。新しい職場に来てもすぐに作業にかかれます。同じ職場で働いていた者同士ですから、コミュニケーションもスムーズにとれています。これに対して、同じ役割の作業員だけを連れてきても、仕事にならないのは明らかです。同じ役割の作業員だけというのは、精製ビタミンに相当します。

他の役割の作業員も揃えなければなりませんし、作業道具一式も用意しなければなりません。グループではなく、同じ役割の作業員だけをたくさん集めてくると、作業してもらうのに必要になる他の役割の作業員も道具も足りなくなります。同じ役割の作業員だけというのは、結局使い物にならないことが多いのです。例えば建築現場に、塗装工だけたくさんいても、建物がつくれないようなものです。

精製ビタミンやミネラルを摂れば摂るほど、単品の栄養素を利用するために、体の中に蓄えてある栄養素を使い果たしてしまうので、逆に栄養不足の状態になるだけです。この無精製栄養素の働きを精製栄養素の組合せで再現することは、不可能です。完全に再現したつもりでも、とうてい無精製栄養素には及びません。なぜならすべての栄養素とその働きとそれぞれの関係が分かっているわけではないからです。

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